今回の中国映画祭、作品数はそう多くはないが、題材も語り口もバラエティに富む作品が並んだ。日本で初紹介の3本のうち、『張美麗先生の脚』は、農村のベテラン女性教師と、都会からやってきた若い女性教師の、二人の問題と生活を対照的に描いている。『紙飛行機』は少年と薬物中毒の母をめぐる物語で、これまでの中国映画にはほとんど見られなかった珍しい題材。『父さんの子は25人』は農村を舞台に、鶏の飼育で表彰された男性が、自分がここまできたのは村全体のおかげとテレビのインタビューで語ったばかりに思いがけないできごとが…。それぞれ現代中国の社会問題を題材にとりながら、私たち日本人観客にも共感できるドラマに仕上がっている。
また『愛に架ける橋』では、中国人警官と結婚したウィーン娘の半世紀が描かれる。 |
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動乱の時代を背景に、強い愛の絆に結ばれながら、二人の運命の変転がドラマティックに展開する。動乱の時代といえば、『宋家の三姉妹』もまた女性の側から中国近現代史を見つめる骨格の大きな作品。そして『こころの湯』は北京の下町で風呂屋を営む一家の人情もの。日本人観客にはその機微と心情が胸にジンとくるだろう。
テレビに観客を奪われつつあるとはいえ、まだまだ中国の映画観客は膨大であり、映画への期待も大きい。お国柄、社会的メッセージ、すなわち国家のメッセージがやんわりと、あるいは背景にさりげなく入り込んでいるのも特徴的だ。
現代中国映画の懐の深さを、是非楽しんでいただきたい。
岩本憲児
(彩の国さいたま中国映画祭実行委員長/早稲田大学教授)
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